
営業所技術者(専技)が退職したらどうする?建設業許可を守る対応手順
営業所技術者(旧・専任技術者)が退職すると建設業許可は維持できるのか。空白期間が出た場合のリスク、後任の選任手順、廃業届のタイミングまで、行政書士が実務目線で解説します。
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建設業許可を取得・維持するための要件のひとつに、各営業所に常勤して技術的な業務を担う技術者の配置があります。この技術者は、長らく「専任技術者」という名称で呼ばれてきましたが、令和6年12月13日施行の建設業法改正により、「営業所技術者」へと名称が変更されました(建設業法第7条第2号)。
名称こそ変わりましたが、建設業を営むうえで各営業所に必要な技術者であるという役割は同じです。実務上は、改正前から使われてきた「専技(せんぎ)」という略称が、現在も広く使われ続けています。
営業所技術者は、請負契約の内容について技術的観点から判断し、適切な施工を確保するための要となる存在です。建設業法上、営業所ごとに専任で配置することが義務付けられており、複数の営業所を兼務することは原則として認められません。
営業所技術者として認められるためには、次のいずれかを満たしている必要があります。
許可要件を欠いた状態が生じる
営業所技術者が退職した瞬間、その営業所は建設業法上の許可要件を欠いた状態となります。建設業法第28条は、許可要件を欠くに至った場合には許可の取消事由となり得ることを定めており、放置すれば許可そのものを失う可能性があります。
2週間以内の変更届出義務
営業所技術者に変更が生じた場合、建設業法第11条第4項に基づき、更があった日から2週間以内に変更届出書を提出する義務があります。これは「後任が決まったら届け出る」のではなく、「退職した事実」自体を届け出るタイミングが、まず2週間以内に到来するということです。
変更届の提出を怠った場合、建設業法第50条により6月以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。さらに、虚偽の届出をした場合はより重い処分の対象となります。「とりあえず後任が決まるまで黙っておく」という対応は、許可制度上きわめて危険です。
営業所技術者が不在の期間が長期化すると、許可行政庁(国土交通大臣または都道府県知事)から許可要件を欠いた状態であるとして、許可の取消処分を受けることがあります。取消を受ければ、その後5年間は新たな建設業許可を取得できなくなるため(建設業法第8条)、事業継続そのものが立ち行かなくなります。
営業所技術者の退職が判明したら、次の流れで対応を進めます。退職日が確定する前から動き出すのが理想です。
ステップ1:退職予定の把握と社内資格者の確認
退職予定者から申し出があったら、まず社内に他の有資格者がいないかを確認します。1級・2級の施工管理技士、関連業種の技術士、長年の実務経験者など、要件を満たし得る人材をリストアップします。
ステップ2:後任候補の要件適合チェック
候補者が営業所技術者の要件を満たすか、資格証・実務経験証明書類で確認します。実務経験で要件を満たす場合は、過去の工事実績を裏付ける契約書・注文書・請求書なども必要です。
ステップ3:常勤性の確保
後任候補者は、その営業所に常勤していることが必要です。健康保険被保険者証、住民票、通勤経路などから常勤性が客観的に立証できる状態を整えます。
ステップ4:変更届出書の作成・提出
退職日(変更があった日)から2週間以内に、許可行政庁へ変更届出書を提出します。後任選任が同時に行えれば、退職と新任を同一の届出で処理できます。
ステップ5:許可業種ごとの整合性チェック
退職者が複数業種の営業所技術者を兼ねていた場合、業種ごとに後任が必要です。1人の後任が複数業種を担えるかは、その後任者の資格と経験次第で変わります。
もっとも確実な方法は、社内の有資格者を後任として配置することです。次の表は、代表的な業種と、営業所技術者として認められる主な国家資格の対応関係を示したものです。
| 業種 | 主な対応資格(特定建設業を含む) |
|---|---|
| 建築一式工事業 | 1級建築施工管理技士、1級建築士 |
| 土木一式工事業 | 1級土木施工管理技士、技術士(建設部門) |
| 大工工事業・内装仕上工事業 | 1級・2級建築施工管理技士(仕上げ) |
| 電気工事業 | 1級電気工事施工管理技士、第一種電気工事士 |
| 管工事業 | 1級管工事施工管理技士、技術士(衛生工学部門) |
| 消防施設工事業 | 甲種消防設備士(特定建設業は1級電気工事施工管理技士等が必要) |
有資格者がいない場合、実務経験で要件を満たす方法もあります。許可を受けようとする業種について10年以上の実務経験があれば、無資格でも営業所技術者になれます(建設業法施行令第7条の3)。ただし、その10年間に当該業種の工事を継続的に行っていたことを、契約書・注文書・請求書などで裏付ける必要があります。
実務経験での申請は、書類の収集と整理に大きな労力がかかります。10年分の工事履歴を遡るだけでも数か月を要することがあり、「退職を知ってから慌てて準備」では到底間に合いません。社内に資格者を計画的に育成しておくことが、長期的な許可維持の鍵となります。
営業所技術者は、経営業務の管理責任者(経管)と兼務することが認められています。社長自身が技術資格や実務経験を備えている場合、退職後の空白期間を兼務で埋める対応が現実的です。ただし、両方の要件をいずれも単独で満たしている必要があります。
複数の建設業許可を取得している場合、退職者が担当していた業種のみを廃業し、残りの業種については許可を維持するという対応が可能です。建設業法第12条に基づき、許可業種の一部について廃業届を提出することで、他業種の許可への影響を遮断できます。
たとえば、建築一式・内装仕上げ・大工の3業種を持つ会社で、内装仕上げの専技が退職して後任が立てられない場合、内装仕上げのみを廃業して建築一式・大工の許可は守る、といった整理ができます。
社内に候補者がいない場合は、外部からの採用を検討します。ただし、採用した人物がすぐに常勤性を立証できる状態(社会保険加入、雇用契約書の整備など)になっていなければ、行政庁は営業所技術者として認めません。短期間での採用と要件整備は容易ではないため、現実には数か月単位の準備期間が必要です。
「名義だけ借りる」という形で、実態のない技術者を営業所技術者として届け出ることは、建設業法上の虚偽届出にあたります。発覚すれば許可取消だけでなく、関係者の刑事罰にも発展するため、絶対に避けてください。
すべての業種で後任が立てられない場合、許可全体を自主的に廃業する選択肢もあります。取消処分を受ける前に廃業届を提出すれば、取消処分による5年間の許可制限は適用されません。事業の再構築や他社との合併も視野に入れた、戦略的な判断が求められる場面です。
営業所技術者の退職対応は、単なる届出書の作成にとどまりません。後任候補の要件チェック、必要書類の収集、業種ごとの整合性確認、廃業との比較検討など、複合的な判断が必要です。行政書士は、こうした判断と書類作成を一括して支援できる国家資格者です。
特に、実務経験での要件立証や複数業種の整理が必要なケースでは、過去の工事履歴の整理方法、書類の作成順序、行政庁との折衝までをまとめて任せられる点に大きな価値があります。
建設業許可関連の届出書類の作成・提出代理は、行政書士法第1条の2および第1条の3により、行政書士の独占業務とされています。令和8年1月1日施行の改正行政書士法では、第19条が改正され「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」業務を行うことが禁じられる旨が明確化され、また法人に対する両罰規定(第23条の3)も新設されました。
これに伴い、令和7年6月13日付の総務省通知(総行行第281号)でも、行政書士法違反行為の取り締まりが強化される方針が示されています。総務省の行政書士制度ページでも詳細が公表されています。「コンサルタント」を名乗る無資格業者に依頼すると、依頼者側まで法的リスクを抱える可能性があるため、必ず登録行政書士に依頼するようにしてください。
退職の連絡を受けてから動き出しても、後任選任には数か月かかることがほとんど。当事務所では、現状の許可業種・社内資格者の棚卸しから、変更届の作成・提出までを一括サポートします。
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