

一般建設業許可の営業所技術者(旧:専任技術者)になる方法は複数ありますが、指定学科の卒業歴も国家資格もない場合、残された道は「10年以上の実務経験を証明する」ことだけです。この記事では、10年の実務経験で営業所技術者になるための要件・手続きの流れ・具体的な証明資料の集め方を、東京都都市整備局市街地建築部建設業課の「建設業許可(申請・変更)の手引(令和7年度)」と建設業法の条文にそって解説します。特に、前職の協力が得られない場合の対処法まで実務目線で踏み込みますので、許可取得をお考えの事業者様はぜひ最後までお読みください。
2026年8月時点で、とくに注意していただきたい3点
営業所技術者とは、建設業許可を取得した営業所ごとに配置が義務づけられる「技術面の責任者」のことです。建設工事の請負契約の締結及び履行の業務に関する技術上の管理をつかさどる者として建設業法第7条第2号に規定されており、常勤性と専任性の両方が求められます。
令和7年2月1日の改正により、従来「専任技術者」と呼ばれていた者の呼称が「営業所技術者」(特定建設業では「特定営業所技術者」)に変更されました。申請様式についても令和6年12月13日から新様式になっています。東京都の令和7年度版「建設業許可(申請・変更)の手引」もこの改正を反映しているため、過去のひな形を流用する際は注意が必要です。
あわせて、令和7年12月12日には改正建設業法が全面施行され、受注者についても不当に低い請負代金・著しく短い工期による契約締結が禁止され、見積書に記載すべき事項が明記されました。許可の要件そのものは変わりませんが、契約実務が変わります。
これら3つのうち、ご自身の状況に合わせて最もクリアしやすいのが「10年以上の実務経験」というルートです。
建設業法第7条第2号に定められた技術要件を満たす方法は、大きく4つに分類されます。ご自身がどのルートに該当するかをまず確認しましょう。
| ルート | 要件 | 必要な実務経験年数 |
|---|---|---|
| ① 国家資格 | 建築士・施工管理技士など、許可業種ごとに指定された資格を保有 | 原則不要(一部資格は要) |
| ② 指定学科卒(大学・高専) | 建築学・土木工学など指定学科を修めて大学・高専を卒業(専門職大学の前期課程修了を含む) | 3年以上 |
| ③ 指定学科卒(高校・専門学校等) | 指定学科を修めて高校・中等教育学校・専門学校を卒業 | 5年以上(専門士・高度専門士は3年) |
| ④ 実務経験のみ | 資格・指定学科卒ともになし | 10年以上 |
①~③のいずれかに該当する方は、短い実務経験または経験不要で営業所技術者になれます。しかし建設業界では資格取得が容易ではなく、また過去に建築学科や土木工学科を卒業していない方も多いのが実情です。その場合は④の「10年以上の実務経験」で要件を満たすことになります。
電気工事業・消防施設工事業は無資格者の実務経験では不可
建設業許可29業種のうち、電気工事業は電気工事士法、消防施設工事業は消防法に基づく資格規制があり、無資格者は工事そのものに従事できないため、実務経験のみでは営業所技術者になれない取扱いとなっています。これら2業種を狙う場合、該当する国家資格(電気工事士、消防設備士甲種等)の取得が前提となります。
10年の実務経験と一口に言っても、何がカウントされて何がカウントされないのか、正確に理解している方は意外と少ないものです。ここでは実務経験の定義と、東京都の数え方のルールを整理します。
実務経験とは、許可を受けようとする建設工事に関する「技術上の経験」を指します。役職や肩書は問われず、以下はすべて実務経験としてカウントできます。
一方、経理・営業・総務・人事といった技術と関係のない業務は、たとえ建設会社に勤めていても実務経験として認められません。
ルール①:1業種につき1期間しか使えない
10年の実務経験は、1業種の証明にしか使えません。例えば「令和元年から令和10年までの10年間」を内装仕上工事業の実務経験として使った場合、同じ期間を塗装工事業の実務経験として重複利用することはできません。複数業種で営業所技術者になりたい場合、原則として業種ごとに10年ずつ、合計20年以上の期間が必要になります。
建設業許可事務ガイドライン(国土交通省)
ルール②:経験は「月」単位で積み上げる
東京都は「原則、1月1件で1か月分の経験と数え、請求書等の発行月で判断する」という運用をとっています。したがって、在籍期間が10年あっても、請求書等の資料が存在しない月は経験月数に算入されません。10年=120か月について、月ごとに資料がそろうかを先に確認してください。
ルール③:常勤で勤務していた期間のみカウント
アルバイト・パート・非常勤の期間は原則としてカウントされません。厚生年金の加入記録等で「常勤性」を別途証明することが求められます。
10年の実務経験を証明するには、「実務経験証明書」と「確認資料」の2系統の書類を揃える必要があります。これらは建設業法第7条第2号ロ、および建設業法施行規則第3条第2項(実務経験を証する別記様式第九号による使用者の証明書)を根拠としています。
営業所技術者となる本人の実務経験を、当時の雇用主(使用者)が証明する公式書類です。以下の内容を記載します。
東京都は「原則、1月1件で1か月分の経験と数え、請求書等の発行月で判断する」という運用をとっています。つまり10年=120か月について、各月に1件ずつ、請求書等と入金確認資料を1か月ずつ1セットにして、古い順に並べて提出します。1件の工期が著しく短い場合には、1か月に複数の工事経験があることが分かる資料を追加で求められることがあります。
| パターン | 必要書類 | 補足 |
|---|---|---|
| パターンA | 代表者印等のある請負契約書または注文書 | 押印ありの契約書・注文書があれば単体で足りる |
| パターンB | 押印のない契約書・請書・見積書・請求書 + 入金確認資料 | 通帳の写しなど、代金が実際に入金された事実が必要 |
| パターンC | 建設業許可通知書の写し(在籍期間分) | 勤務先が当時建設業許可を持っていた場合に限る |
ここが最もつまずきやすい箇所です
「10年分の経験がある」ことと「120か月について、月ごとに1件ずつ資料がそろう」ことは同じではありません。閑散期に請求がない月があると、その月は経験月数に数えられません。資料の連続性を先に確認してから、申請時期を決めてください。工事名だけでは業種を判断できない場合は、見積書や仕様書など施工内容が分かる資料を補います。→ 建設業許可のよくある質問 Q16(10年の実務経験は、何で証明しますか)
上記に加え、本人が当該期間その会社に常勤で在籍していたことを示す資料が必要です。令和8年7月1日から取り扱いが変わりました。従来の健康保険証は使えず、マイナンバーカード(マイナ保険証)も確認資料の列挙から外れています。現在は下表の資料を組み合わせて提出します。
| 区分 | 提出する資料(令和8年7月1日以降) |
|---|---|
| 法人 | ① 申請者への所属を証明する資料(標準報酬決定通知書の写し、資格取得確認及び標準報酬決定通知書の写し、厚生年金保険の被保険者記録照会回答票の写し、住民税特別徴収税額通知書(徴収義務者用)の写し、事業所名の記載がある健康保険の資格確認書の写し、直近決算の法人用確定申告書の写し等のいずれか) ② ①に生年月日の記載がない場合は、生年月日を確認できる資料も併せて提出 |
| 個人事業主 | ① 他の事業者の社会保険へ加入していないことを証明する資料(直近決算の個人所得税確定申告書の写し。第一表・第二表・受信通知) ② 本人の生年月日を確認できる資料 |
| ② 生年月日の確認資料 | 次のいずれか ・健康保険の資格確認書の写し(有効期限以内のもの) ・運転免許証の写し(有効期限以内のもの・両面) ・発行後3か月以内の住民票(個人番号および住民票コードを省略したもの・原本提出) |
令和8年7月1日からの常勤性確認資料の変更点
出典:東京都都市整備局市街地建築部建設業課「常勤性の確認書類の取り扱い変更お知らせ」(令和8年7月1日)。対象は常勤役員等(経管)、営業所技術者等(専技)、直接補佐者、令3条の使用人です。住民票は原本提出のため、取得から申請までの日数に余裕を持たせてください。→ 建設業許可のよくある質問 Q17(常勤性は、どうやって証明しますか)
10年実務経験の証明で最も難関となるのが、「前職の会社が実務経験証明書に押印してくれない」「契約書や請求書の写しを貸してくれない」というケースです。退職時のトラブル、会社の倒産、代表者の交代など、原因は様々ですが、このような状況でも許可取得を諦める必要はありません。
まずは前職の会社に対し、「建設業許可取得のために協力してほしい」と改めて丁寧に依頼することが基本です。前職に損害を与えるような書類ではないこと、行政書士が間に入って手続きを進めることを説明すると、応じてくれる場合があります。依頼文書を書面で送付するのも有効です。
前職の会社が本人の在籍当時に建設業許可を有しており、その情報を行政庁が保有している場合で、かつ本人が当時その会社の厚生年金に加入していたことが記録で確認できる場合には、前職の押印を求めずに取り扱われることがあります。
前職の押印も対処法②も使えない場合、以下のような代替資料を組み合わせて実務経験を疎明することを検討します。
代替資料で実務経験を認めてもらえるかは、担当審査官との事前相談が不可欠です。書類を揃える前に、行政書士を通じて建設業課に事前確認を取ることで、手戻りを防げます。
「名義貸し」は絶対に行わないこと
営業所技術者になれる人が見つからないからといって、他人の名義を借りて申請する行為は、名義を借りた側が無許可営業として3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(建設業法第47条第1項第1号)、法人には1億円以下の罰金(同法第53条第1号)の対象となります。名義を貸した側も指示処分・営業停止処分(同法第28条)の対象となり、情状が特に重い場合は許可の取消し(同法第29条第1項第8号)に至ります。
また、許可申請書に虚偽の記載をして提出した場合は、6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です(同法第50条第1項第1号)。短期的な解決にもなりませんので、必ず正攻法で取り組んでください。
実務経験証明書は、書き方ひとつで差し戻しの対象になる重要書類です。東京都の様式に沿って、記載上のポイントを押さえておきましょう。
① 証明者欄:在籍当時の会社(使用者)が証明者となります。法人の場合は代表者、個人事業主の場合は事業主です。証明者が本人の父親や兄弟であっても、法律上問題ありません。
② 技術者の氏名・生年月日:営業所技術者となる本人の情報を記載します。
③ 使用された期間:在籍期間を「令和◯年◯月◯日~令和◯年◯月◯日」の形式で正確に記入します。雇用保険被保険者証や厚生年金記録と整合させる必要があります。
④ 職名:「現場監督」「大工」「作業員」など、実際の職務内容に即した記載をします。
⑤ 実務経験の内容:工事名を具体的に記入します。単に「内装工事」と書くのではなく、「◯◯ビル3階内装仕上工事」のように業種が判別できる記載にします。ここが曖昧だと実務経験として認められないリスクがあります。
⑥ 実務経験年数:各工事に携わった期間を年月日で記入し、東京都の月単位の数え方で通算120か月以上になることを示します。
10年実務経験での申請は、準備段階でつまずくケースが多くあります。行政書士の実務経験から、特に注意すべき落とし穴を3つご紹介します。
東京都の月単位の数え方では、10年=120か月分の請求書等と入金確認資料が必要です。資料の散逸、古い紙ベース資料の判読困難、前職への連絡調整など、短くても1~2か月、長いと半年以上かかるケースも珍しくありません。許可取得を急ぐなら、資料収集は今日から始めるべき作業です。
審査では「この工事は本当に◯◯工事業に該当するのか」が厳しくチェックされます。例えば「◯◯様邸改修工事」という工事名だけでは、内装工事なのか大工工事なのかタイル工事なのか判別できません。当時の見積書・工事明細・施工写真などで、工事内容を具体的に示せるよう準備しておく必要があります。
「2級建築施工管理技士の資格があるが、自分は実務経験が長いから実務経験で申請したい」というご相談をいただくことがあります。しかし資格ルートのほうが書類も少なく、審査も短期間で済みます。資格がある場合は原則として資格ルートで申請するのが賢明です。資格と実務経験のどちらが有利かは、業種ごとに判断する必要があります。
このページの数値・運用は、次の資料に基づいています。掲載内容は2026年8月27日時点のものです。法令や東京都の運用は改正されますので、実際の手続の前には必ずリンク先の最新版をご確認ください。
行政書士萩本昌史事務所は、東京都知事許可の10年実務経験ルートでの申請は書類収集が膨大になりますが、事前の資料整理から証明書作成、窓口との事前協議まで一貫してサポートいたします。前職の協力が得られない困難案件もご相談ください。
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